[1]
[2]
きっと、たぶん。
僕は詳しくは知らないけれど、多分その銀猫は。
棄てられた赤い目をした銀猫は。
獅子に、ライオンになりたかったんだってさ。
立派な鬣を風に靡かせて、崖の上に立って吠えるんだ。
そんな夢を毎晩見ては、現実に涙していたの。
もっと、僕が大きかったら。もっと、立派な爪が生えていたら。もっと、大きな声で呻れて、誰もが驚いて逃げ出すような、獅子の身体をしていたならば。
銀猫は、爪を研いだ。
鋭く光るように。
でもまだまだ獅子にはなれない。
銀猫は、吠えた。
力の限り、大きな声で。
でもまだまだ獅子にはなれない。
銀猫は、自分に出来ることを一生懸命、精一杯やった。
だけど、銀猫は銀猫のままで、獅子になんてなれなかったんだよ。
なんで?
愛しいを知ってしまったんだってさ。
ついと、ねこじゃらしを降ってくれる人に出会って、りんと、綺麗な鈴を遊ばせてくれる人に出会って。
獅子みたいに立派じゃなくても、僕は、
綺麗に爪を研いでもね、それは所詮、怖さを隠すためでしかなかったんだよ。
声を張り上げて吠えてもね、それは所詮、鳴き声でしかなかったんだよ。
知らなかった、本当は知っていた?でもね、気付かない振りをしていたの。
どうして?
それは、銀猫が強がりだからだろうね。
銀猫のはなし、今日はもう遅いから、これでおしまい。
PR
やっぱり、困るかな、困るよね。
だって、君と手を繋げないし、君を抱きしめる事が出来なくなるでしょう。
それに、バイバイって手を振るのも、来ないでって拒否するのもこの手だもの。
何処が愛しいの、と聞かれたらやっぱり手かな。
君と僕が繋がるには、この手が動かなかったら困るもの。
嗚呼でも、君の手が動くなら、君は僕の手を取って笑ってくれるんだろうね。
僕がその時君に、笑い返せるのかは分からないけれども。
だって、君と手を繋げないし、君を抱きしめる事が出来なくなるでしょう。
それに、バイバイって手を振るのも、来ないでって拒否するのもこの手だもの。
何処が愛しいの、と聞かれたらやっぱり手かな。
君と僕が繋がるには、この手が動かなかったら困るもの。
嗚呼でも、君の手が動くなら、君は僕の手を取って笑ってくれるんだろうね。
僕がその時君に、笑い返せるのかは分からないけれども。
羨ましくて、仕方なかった。
君は、僕とは違って、「普通の子供」だったから。
だから、母は君の事を誰より愛したのでしょう?
羨ましくて、仕方なかった。
貴女は、俺とは違って、「普通の子供」では無かったから。
だから、俺は縛られて一つも自由なんてありゃしない。
ねえ、
要らないのなら、寄越し給へよ。
羨ましくて、妬ましくて、喉から手が出るほど欲しかった。
「今はどうなの?」
そう問われれば、今でも確かに、「欲しい」と思う。
君が普通でなくなっても、でも、僕は、君のように「母に愛された記憶」は、無い。
なあ、
それがそんなに嫌ならば、俺に寄越せばいいだろう?
変わりたいなら、変わってあげるのに。君の銀の髪を、赤い眼を頂戴?
「本当に欲しかった?」
そう問われれば、「当たり前だ」、恨みがましい目で君を見て、そう言える。
君は自由だった。俺は、「決まりに縛られて窮屈」だった。
いらないものなら、どうか、わたしに。
願っても願っても、届きはしないのだけれども。
か細い声で笑った、消えてしまいそうな声で、笑った。
そんな君も愛おしくて堪らないの。
そう言う声も掠れていて、今にも消えてしまいそう、で。
抱きしめたら、手が触れたら崩れてしまうような気がして、手を引っ込めた。
嘘を吐くのなら、もっと騙せるような顔をしてご覧よ。
やや皮肉を含むその言葉を聞いて、今度は確かに、笑った。
嗚呼、君は本当に読めない人だね。
あの時、僕が強ければ、今くらいに、力があったら。
そう思うのは、今に始まったことじゃなかった。
「何で死んだの?」涙ながらにそう問えば、僕と同じ顔した彼女は言う、「貴方のせいでしょう?」
君が弱いから、力が無いから、弱虫で役立たずだから、だから、だからだから。
だから親に嫌われるのよ、見捨てられるのよ、そう、誰も悪くない、悪いのは君でしょう?
黙って。
誰に口をきいているの?
喋っているのは僕、君と同じ、いや、僕は君。君は僕。ねえ、違うの?
うるさい。
まぁ、せいぜいそうやって誰かのせいにしていればいいじゃない。
弱いのは誰?グズなのは誰?我儘甘ったれの困ったちゃんは、だぁれ?
黙ってよ、うるさいよ、耳障り、全部、ぜんぶぜんぶぜんぶ。
僕と同じした彼女は言う、「全部君のせい、悪い人なんてだれ一人としていないのよ」、と。
嗚呼、でも確かにそうでしょう、弱かったのは紛れもなく、この、自分。
もっと強ければね、いい子だったらね、沙羅は、嫌われなかったかな。大切な人一人、ちゃんと守ってあげられたかな?
でもね、ねえ、それは、
願っても仕方のないこと、でしょう?